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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)684号 判決 1968年1月31日

原告 川田花子

右訴訟代理人弁護士 内藤義憲

同 杉本昌純

同復代理人弁護士 西幹忠宏

被告 山田幸一

右訴訟代理人弁護士 大野忠男

主文

一、被告は、原告に対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明け渡し、かつ昭和四〇年一月一日から明渡済に至るまで一ヶ月金七九三円の割合による金員を支え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は金員の支払を命じる部分は無条件で、その余の部分は、原告において金五〇万円の担保を立てることを条件に、それぞれ仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一、原告

主文一、二項同旨および仮執行宣言

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地と略称する。)を含む別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、イの各点を順次直線で結んだ部分一八四・二九平方メートル(五五・七五坪)はもと加藤長子が所有し、昭和九年一月一六日被告に対し、期間を遡って大正一四年一月一日から昭和一九年一二月三一日までと定めて建物所有の目的で賃貸した。その後右賃貸借契約は右期間満了とともに更新され、期間は昭和三九年一二月三一日までとなった。

被告は本件土地のうち別紙図面(イ)の部分に別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物と略称する。)を所有し同図面(ロ)の部分を庭として使用している。

その後本件土地を含む右一八四・二九平方メートルの土地は福田豊太郎の所有となり、ついで原告が、昭和二五年六月六日、同人から、別紙図面(イ)、(ロ)、(ハ)の部分一二八・一六平方メートル(三八・七七坪)を買い受け、本件土地については右賃貸人の地位を承継した。

(二)  被告は右賃借期間満了後も本件建物を所有して本件土地の占有使用を継続しているので、原告は、被告に対し、昭和四〇年一月八日到達の内容証明郵便で右継続使用につき遅滞なく異議を述べた。

(三)  右異議の正当事由は次のとおりである。

1 原告はその経済的苦境を打開するために本件土地を活用すること以外に残された方策はない。すなわち、原告の家族は、母きみ、妹月子の二名で、いわゆる女所帯であるが、原告は重症の胸部結核で療養の必要があり、定職につくことは望めず、本件土地および前記(ハ)の土地以外にはなんら資産を有しない。また、母きみは、七〇才に近い高齢のうえ、病気がちであるため、これまた定職は得られず、僅かに本件土地に隣接する前述(ハ)の部分に木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟床面積四一・三二平方メートル(一二・五坪)を二階建に改造した建物(以下、原告居住建物という。)を所有し、原告と二人でこれに居住し、一部を間貸することによって若干の収入を得ているにすぎない。ただ、妹月子だけは美容師として収入を得ているが女の細腕一つで原告一家の生計を支えること自体が難しいところに加えて、昭和三九年六月一六日成立した裁判上の和解で、訴外長岡喜之助に対し、きみと連帯して毎月二万円づつを支払う債務を負担し、きみには、前述の事情で弁済能力はないのでけっきょく月子がその収入の殆どを右債務の履行に充てざるを得ない破目に陥っている。のみならず月子は未婚の女性で、具体的な縁談も起っており、右債務は完済できても、他家へ嫁いだ後は原告に対する援助を期待することはできない。このように原告およびきくは経済的苦境にあるため、生活扶助および医療扶助を受けており、これら生活保護と、母きみが受ける老令年金、遺族年金などの給付ならびに原告居住建物の一部(二部屋)を間貸することによって得られる賃料収入および原告が比較的体調の良い時に療養中の身をおして、軽度のアルバイトをすることによって不定期的に得られる収入を合わせて、辛じて糊口を凌いている現状である。このような原告の経済的苦境をいくらかでも和げ、原告が生命の危険を冒さないで生活できるようにするためには、本件土地を活用する以外に途はない。そこで原告は本件土地を投下資本も僅少ですむ貸ガレージとして利用し、収入の途を図る計画である。

2 しかして、被告は容易に本件建物を移転させ得る状態にあったのにあえて、これをしなかったものである。すなわち、原告は被告に対し昭和三九年六月四日到達の内容証明郵便で本件土地賃貸借契約の期間満了(同年一二月三一日)をもって本件土地を明渡すよう通知し、同年八月東京簡易裁判所に建物収去土地明渡の調停を申し立てたところ、被告は長男山田太郎から無償で借受けている別紙図面(二)の土地のうち同図面のロ、ハ、カ、ワ、ラ、ル、ロの各点を順次結んだ線によって囲まれた部分に同年九月になって木造瓦葺二階建共同住宅一棟床面積五一・二三平方メートル(一五・五坪)二階四九・五八平方メートル(一五坪)を建築すべく着工し、翌一〇月未完成所有するに至った。しかし、それまでは右土地および本件土地のうち別紙図面(ロ)の部分は空地のまま放置してあったのであるから、被告としては原告の本件土地明渡の要求を容れて本件建物を右土地に移転させることは充分可能であるのに、原告の返地の要求を妨げる意図で右建築をあえてしたものである。

3 なお、以上のほか被告には原告に対する次のような背信的行為があった。すなわち本件土地の賃貸借契約には、借地人において本件土地上の建物の増改築、模様替えをするときには予めその構造、用途等を明示して賃貸人の承諾を受けるべき旨の約定があったのに、被告は昭和三二年頃、原告の承諾なくして、本件建物のうち別紙図面ヌイ、イロ、ロルの各点を結ぶ線に面する側に全面的な根継ぎを断し、その周囲をモルタル張りとし、ヌイの各点を結ぶ線の側に出窓を出す等して本件建物に根本的な改造を加えた。被告の右行為は契約違反であり、賃貸借契約における信頼関係を破壊するものであるから、本件賃貸借契約の期間満了に際し、これ以上、賃貸借契約を存続せしめることではきない正当事由の一内容となるべきものである。

(四)  本件賃貸借契約は、昭和三九年一二月三一日期間満了により、更新されることなく、終了したが当時の賃料は月額七九三円である、被告は原告に対し、本件土地の明渡債務を負担しながら、その履行を遅帯し原告に一ヶ月金七九三円の賃料相当の損害を与えている。

(五)  よって原告は被告に対し、右契約終了を原因として本件建物を収去して本件土地を明渡し、かつ、右損害賠償として契約終了の翌日である昭和四〇年一月一日以降右明渡済に至るまで一ヶ月金七九三円の割合による金員の支払を求める。

二、請求原因に対する被告の認否等

(一)  請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)の正当事由の存在は争うが、1のうち別紙図面(ハ)の部分に存する原告居住建物が、原告の母きみの所有であり、これに原告ときみが居住していることおよび原告主張のような裁判上の和解が成立したことは認め、本件土地を自から使用しなければならないほど困窮しているとの点は否認し、その余は不知、2のうち原告主張の日、その主張のような内容証明郵便が到達したこと、原告がその主張のような調停を申し立てたこと、被告が別紙図面(二)の部分に原告主張のころ、そのような建物を建築所有したことはいずれも認めるがその余は否認する。3のうち被告が本件建物につき原告主張のような改造をなしたことは認めるが、それが賃貸人たる原告に対する背信行為であるとの点は否認する。

(二)  原告主張の正当事由に関する被告の積極的主張

1 被告が共同住宅を建築所有したのは、該建物からの賃料収入によって生計をたてる目的に出たものである。すなわち、被告は本件建物に居住して竹材卸商を営んできたが、建築様式も変り、竹材需要が激減したのと、被告自身も高齢(六八才)に達したので、昭和三九年七月廃業し、原告主張の共同住宅を長男所有の(二)土地上に建築し、その賃料収入によって妻と病弱の娘よりなる家族の生計を維持する計画を立て、同年九月始め着工したのであって、この時には、未だ原告が被告に対し調停申立をしている事実は知らなかった。

2 被告は本件土地を必要とする。すなわち、被告は前記共同住宅の建築代金約二六〇万円のうち金一、八七七、二〇〇円を同建物を担保に借入れたもので右債務は昭和四三年三月までに割賦弁済しなければならない。このため、原告は、右共同住宅(階下は事務所、二階は貸室四室)から月額七五、〇〇〇〇円の収入があるけれども、割賦弁済に追われる身で、極度に切り詰めた生活を余儀なくされており、本件土地を明渡し本件建物を失うとなれば被告こそ生活保護を受けなければならなくなる。

3 被告には背信的行為はない。被告が本件建物を改造したのは、原告の母きみの責に帰すべき事由に因るものであって、なんら原告に対する背信的要素はない。

すなわち、被告は昭和二二年一一月別紙図面(イ)の部分に本件建物を建築所有したところ同図面(ハ)の部分に原告の母きみが所有する原告居住建物を、同図面ルヌの各点を結ぶ線より六・四一平方メートル(一・九四坪)だけ被告の借地である本件土地(イ)の部分に侵入するように増築しており、この部分には雨といもつけてなかったため雨水の注入により本件建物のうちこれに接する部分の土台が腐朽しはじめた。しかも原告の母きみは、昭和二五年一〇月七日成立した裁判上の和解により、右侵入部分を昭和二六年五月末日限り収去すべき義務を負担したにもかかわらず、その履行を昭和二八年一〇月まで遷延し、右腐朽の度合を増大させた。そこで、被告は已むを得ず昭和三二年八月から九月にかけて本件建物の前記部分の土台をとりかえ、その他の部分をも補強して、外部をモルタル張りに改造せざるを得なかったものである。かように、改造を余儀なくさせた原因が原告側の所為にあるため原告も被告の隣りに居住していながら、右改築工事につきなんら異議をさしはさまなかった。

三、被告の積極的主張事実に対する原告の認否

1の事実のうち、被告の共同住宅建築の動機は前述のように争い、その余は、別紙図面(二)の部分の土地の所有者の点を除き不知、2の事実は不知、3の事実のうち、きみが原告居住建物を建築したこと、雨どいがなかったこと、増築部分収去義務を負担したこと、その履行が遅れたことは認めるが、その余の事実は争う。きみの収去義務の履行が遅れたのは、原告の病状が当時悪化し、経済的な余裕がなかったためであるが、本件建物の土台の雨水注入による腐朽は口実で、被告は、土台だけでなく広範囲にわたり根本から改造している。そこで原告側では、右改造中に被告に対し、抗議している。

第三、証拠関係 ≪省略≫

理由

一、請求原因(一)、(二)の各事実、(三)2の内容証明郵便および調停申立による明渡の請求の事実は当事者間に争いがなく、これによれば、原被告間の建物所有を目的とする本件土地賃貸借契約の期間は、昭和三九年一二月三一日をもって満了したところ、被告は、その後も本件建物を所有して本件土地の使用を継続しているため、原告は遅滞なく、異議を述べたものというべきである。

二、そこで原告に右異議の正当事由が存するかどうかを判断する。

(一)  原告の母中川きみが、本件土地に隣接する別紙図面(ハ)の部分に原告居住建物を所有し、原告と共に居住していることは当事者間に争いがない。

(二)  ≪証拠省略≫を綜合すると

1  原告の母きみは、昭和九年頃夫と死別し、昭和二〇年六月長男を戦争で失い、以来、長女である原告(昭和四〇年一〇月で三六才)および次女月子をかかえて行商とか、学校の売店経営等をして生活を維持してきた。

2  しかし、原告と生計を一にする母きみは、七〇才に手の届く高齢のうえ、昭和三九年頃からは低血圧症のため医者の勧告を受け、職業に就くこともできず、未だに加療中の身で、ただ、原告居住建物のうち二室を学生と行商人に間貸して得る月額一万円に満たない賃料収入および老齢年金、遺族年金の収入があるだけなので、昭和三三年以来生活保護法による生活・医療扶助を受け、これも合算して、月平均一四、〇〇〇円前後の収入となっている。

3  原告は昭和二一、二年前後から重症の胸部結核を患い、療養所を転々し、最近は、病状の進行も止まり、一応は治癒したと言える、状態になったが、気胸手術を行ったわけでもないのに、肺活量は通常人の三分の一程度で、通常人のように作業をなし得る健康体には程遠いため、これといった定職に就くことは不可能な身体であり、せいぜい、体調の良いときに、折を見て、結核予防協会の受付事務等その健康状態に理解を得られる方面でアルバイトの口を見つけるくらいで、その収入といったところで、月額数千円の域を出ない。原告の資産としては、本件土地およびこれに隣接し、原告居住建物が存在する別紙図面(ハ)の土地とが唯一のものであるが、被告に賃貸中の本件土地の賃料は、月額七九三円である(賃料月額は被告も明に争わない)。

4  もっとも、原告の唯一の妹月子は、美容師の資格を有しただひとり稼動収入を得ているが、独立して美容院を開設する資金として、母きみが、長岡善之助から借り受けてくれた金四〇万円を、営業不振のため返済できず、けっきょく右債務は利息等を含めて金一〇〇万円に達し、この弁済方法につき、内金六〇万円を一時に、残金四〇万円は月子ときみが連帯して同年七月三〇日から昭和四一年二月二八日まで毎月二万円宛支払うことで、昭和三九年六月一六日裁判上の和解が成立した。しかし、きみにはその弁済能力があるわけではないから、月子は、せっかく入手した右美容院を手放したうえ、再び、他人の店で働きその稼動収入をもって右割賦金の支払にあてることを余儀なくされた。しかも月子には結婚の話が起り、その準備のためもあって、きみに対し月二千円に満たない程度のいわば、小づかい銭を援助するのが精一杯であった。なお、月子は右割賦金完済の期限である昭和四一年に結婚した。

との事実が認められ、他に反対の証拠はない。

そうすると、原告およびきみは、不動産として相当の価値があるものを有しながら、一部は自分の居住の用に供しているため、収入の手段とすることができず、残る本件土地からは、些少の地代収入を期待し得るにすぎず、他に見るべき収入がないため生活保護を受けざるを得ない立場に追いこまれているものであり、生活保護の受給という事実自体がきみと生計を一にする原告の経済的困窮を示す徴表にほかならない。しかも、原告の健康状態は、将来にわたって、正常な労働能力の回復を許すことを期待できず、現在は生計を共にしている母きみもその老令、病身を考えれば、速に、原告の健康が許すような方法で、原告が経済的に自活できる方途を確立することが、原告の精神にとっても身体にとっても必要なことは容易に首肯できる。

(三)  そして、≪証拠省略≫によれば原告は本件土地の明渡しを得て、ここを貸ガレージとして使用する計画をたてているものであり、この計画は原告の健康状態および資金の調達の難易を考えたうえでのものであることが認められ、反対の証拠はない。原告のこのような計画が現在どの程度まで具体化されているのかは詳らかでないけれども、貸ガレージ業といっても、ごく単純な形態では、単に駐車に適する場所を提供すれば足りるものであるから病弱、老令の女性でも一応は経営でき、かつ、それによって得られる収入は、所要の投下資本の経費を考慮に入れてもなお本件土地の月額賃料金七九三円をはるかに上廻わるであろうことは十分推測できる。

(四)  ひるがえって被告側の事情につき検討する。

1  ≪証拠省略≫を綜合すると、被告は昭和七年ごろから本件土地に居住して三棟の建物を所有してきたが、戦災で焼失し、昭和二二年ごろ本件建物を建築したもので、この間、同所で竹材卸商を営んできた。しかし、新建材の普及による竹材需要の減少、被告自身の高齢(六八才前後)を考えて昭和三九年七月末で廃業し、以後は賃料収入によって妻と病弱の娘(昭和四〇年一〇月当時三四才前後)を抱えた一家の生計を維持していくことを考え、同年九月初め、長男太郎所有の別紙図面(二)の部分の土地上に、一階が貸事務所、二階が六畳二室、四畳半二室の貸室からなる共同住宅を建築し始めた(着工の時期は争いがない)。右建築資金のうち金三〇〇万円は被告の資金でまかない、不足の金一、八七七、二〇〇円は同月七日、日本住宅建設株式会社から借り入れ、同年一〇月以降昭和四三年三月まで毎月金四九、四〇〇円ないし三九、〇〇〇円あての割賦金をもって弁済すべき旨を約している。被告は右共同住宅から賃料として月七五、〇〇〇円の収入があり、これによって、右割賦金の支払をするとともに、一家の生活の資にも充てている。なお被告には同居している前述の娘のほか四人の子供が居り、それぞれ自立しているとの事実が認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠は存しない。してみると被告の生活状態は必ずしも裕福とはいえないにしても、本件土地を明渡せばただちに生活に困窮するような境遇にあるとはとうてい認め難い。

2  そして、被告が昭和三九年九月前示の共同住宅一棟(床面積五一・二三平方メートル、二階四九・五八平方メートル)を建築するに先立ち、原告は、昭和三九年六月四日到達の内容証明郵便をもって、被告に対し、本件土地賃貸借契約の期間満了(同年一二月三一日)の節は同土地を明渡すよう申入したことは当事者間に争いがない事実であるから、被告は、右共同住宅の建築に着手する三ヶ月前にすでに、原告が同年末日かぎり本件土地の賃貸借を終了せしめ、その明渡を要求する意向であることを熟知していたことは明白である。にもかかわらず被告が敢えて右建築を断行したことには、一面では、前示のような老後の生活設計という事情があるけれども、一部には、原告がなすであろう土地返還請求に対処するには、右(二)の部分の土地が空地のまま放置されていることが被告に不利に作用しかねないとの考慮が全く働かなかったとはにわかに信じられない。そして、≪証拠省略≫によれば昭和三九年六月頃は、右(二)の部分は空地であったことが認められ他に反対の証拠はないから、被告としては、原告の要求をも考慮すれば、少くとも右(二)の土地上に建築される共同住宅の一隅を自分の住居として、保留することは充分可能な状態にあったものというべきである。

(五)  以上原被告双方の事情を比較考量するならば背信行為の存在を論じるまでもなく、原告の本件土地を自ら使用することの必要度は、被告よりもはるかに大きく、かつ、さし迫ったものがあり、本件賃貸借の期間満了に伴う異議には正当事由があるものと判断するのが正当である。けだし、被告は、要すれば、自分の手で、その住居を確保し得たものであり、また今後においても、住居であれば、多少の不便を忍べば、さほど入手は難くないのにひきかえ、原告は、その身体的条件および経済状態からいって、本件土地を利用することが残された殆ど唯一の自力更生の方法と認められるからである。自ら更生する意志と手段とを有する原告に対して、この途を閉ざし、生活保護を受給のやむなきにまで陥らせてまで、原告の正当事由を否定しなければならないほどの事情は、被告の全立証その他の本件証拠によっても、これを見出すことはできない。したがって、本件土地賃貸借契約は昭和三九年一二月三一日の期間満了をもって終了したものというべきである。

三、そして、以上の認定、判断によれば、本件土地の賃料が月額七九三円であることは前示のとおりであるから、被告は、昭和四〇年一月一日以降、本件建物を収去して本件土地を明渡すまで、右賃貸借終了に基づく原状回復義務の履行遅滞による損害の賠償として、原告に対し、一ヶ月金七九三円の割合による金員を支払うべき義務があることも明らかである。

四、よって原告の本訴請求は、いずれも正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本和敏)

<以下省略>

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